『子どもと自然大事典』(2011・ルック)
第1部「子どもと生きもの」 第1章「子どもと昆虫」より
「ニャッキ!」「ブタちゃんだ!」
毎年5月になると、子どもたちの人気者がフィールドに現れる。マイマイガというガの幼虫で、いわゆる「毛虫」である。NHK教育テレビのアニメ「ニャッキ」は毛虫ではなく芋虫のほうであるが、実際にこの幼虫がモデルだという人もいる。頭部の黒い紋が八の字型をしていて、目に見えたり「ブタの鼻」に見えたりするのである。
「手乗り毛虫だよ」
私が手のひらにのせてみせると、初めての子どもたちは大騒ぎで逃げまわる。それからおそるおそる近寄ってきて、とりあえず指先でつんつんしてみたり、自分の手にのせたがったりするようになる。毒がないことを知っている子どもたちは、われ先にと毛虫を奪い合って小競り合いになるぐらいの人気者なのである。
毒がないとはいわれていてもドクガ科に属する毛虫なので、一〇〇パーセント大丈夫という保証はない。固い毛が指に刺さることもある。だが、今まで何百人もの人たちに触らせても大丈夫なので、私だけが特異体質というわけではなさそうだ。
毛虫は「害虫」だから見つけたら殺すというような短絡的な発想は、無意識のうちに親やまわりの大人たちが子どもに教えてしまっているのではないだろうか。自分で見分けることは難しいと思うので、子どもには毛虫は触らないように教えておくしかないが、実際に毒をもっている毛虫は意外と少ない。
日本にいるチョウやガの仲間だけでもおよそ五〇〇〇種類、そのうち毛虫は一〇〇〇種類ぐらいで、毒をもっているものは五〇種類という人がいるので、チョウやガの幼虫の一パーセント、毛虫の内のわずか五パーセントにすぎないようである。
同じ頃に現れ、子どもたちが「バブちゃん」「ロウ毛虫」と呼んでいるのは、ハバチの仲間の幼虫である。白いロウ物質を身にまとっているが、ロウを吹き飛ばすと芋虫が現れる。手のひらにのせてよく見てみると何ともかわいらしい顔をしていて、これも子どもたちの人気者である。
厄介なイラガの仲間やチャドクガが庭木で大発生した場合は、これはもう焼き払うしかない。だが、自然の中で毛虫を見つけた場合には、色や形のおもしろさやどんな種類の植物をどのようにして食べているのか、そっと観察させてもらうだけにしたいものである。芋虫や刺さないとわかっている毛虫はぜひ手にとって、触ってみたり手の上を這わせてみたりしてみたい。そうすると、たとえ毛虫でも「かわいい!」と思ってしまうから不思議なものである。
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