『子どもと自然大事典』(2011・ルック)
第2部「子どもとモノ」 第1章「子どもと道具」より
自然物を使った工作は、子どもと自然を結ぶ第一歩として貴重な体験となる。自然の素材には何ひとつとして同じものはない。種類によって手触り、固さや脆さ、色や形、質感や量感、匂いなどが違うため、素材を集めたり作業したりする中で子どもの五感を発達させ、手先や道具を使うことによって知能も発達させる。
だが、従来の「ネイチャークラフト」は、道具の使い方を教えることに重点を置きすぎていないだろうか。幼い子どもでも楽しめるように、これからは道具や素材にも工夫が必要である。たとえば木の枝を削って鉛筆を作る場合でも、ナイフという道具にこだわる必要はない。やわらかい木を使えば、幼い子どもでも紙ヤスリで削れる。私は「香りのエンピツ」と呼んでいるが、削るといい匂いがするクスノキなどを使えば、子どもの五感はさらに刺激されるだろう。
どんぐりを使った工作でも、コマややじろべえといったおきまりの古い遊び道具を作らせるのではなく、木の枝や他の木の実などを自由に組み合わせて何が作れるのか何を作りたいのか、子どもの想像力をかきたて独創性をはぐくむ方向へと導きたい。
そのためには、「作る」ことよりも「見つける」こと、そこに落ちている木の枝や木の実、葉っぱや石が何に見えるか、何かに見えるもの、自分の心に何か訴えてくるものを自分の目で「見つける」こと、従来の「ネイチャークラフト」から「ネイチャー=アート」への発想の転換が必要である。子どもは本来、自然の美しさやおもしろさを自ら発見する喜びを知っている。一枚の葉っぱや一つの石でも、見方によっていろいろな物に見えることにも気づくだろう。
見つけて少し手を加えるだけで立派な作品になるものもある。作品の一部分を「見つける」ことで、そこから想像力を使って組み立てていくこともある。自分が見つけた自然の素材を作品として完成させることで達成感も得られ、表現する喜びも知ることになる。親子や仲間といっしょに楽しむ場合には共感したりしなかったり、お互いに刺激しあってシェアリング効果も期待できるだろう。
また、自然の素材を使った工作は、自らの手で直接自然の物に触れることによって自然への認識を深め、また遊びながら楽しむことができるため、「自然保護教育」(日本自然保護協会編集・監修『自然観察ハンドブック』平凡社・一九九四)の「自然に親しむ教育活動」の一環として位置づけることもできる。素材となった木の枝や木の実から一本の木へ、一本の木から雑木林や森へ、森から生態系へと、展開の仕方次第で「自然を知る教育活動」「自然を守る教育活動」へもつなげていくことができるのではないだろうか。
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