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夜の森探検隊T

 
カブトムシやクワガタムシはやはり子どもたちの人気者

『子どもと自然大事典』(2011・ルック)
第2部「子どもとモノ」 第2章「子どもと地球」
より

 夜の森は子どもの野性を目覚めさせる。私たち人間は情報の九割近くを視覚に頼っているため、暗闇の中では聴覚や嗅覚、足裏の感覚だけでなく、気配や殺気を感じたりする「シックス・センス」も含めて、すべての感覚を総動員してとぎすます必要があるからだ。
 足元に注意しながら歩いてみるだけで、人間の力のおよばない夜の森を子どもは敏感に感じとる。自分もまた生きものの一種にすぎないことを全身で感じとるだろう。いつもは虫を探したり捕まえたりして遊んでいる森も、夜は逆に得体の知れない生きものたちに見られているような、自分が捕まえられてしまうような感覚だろうか。
 樹液が出ている木に近づくと、夜は匂いで気がつく子どもも多い。樹液に来ている生きものの種類の多さや昼間との違いは、ひと目でわかることだろう。樹液をめぐる虫たちの争いや力関係、樹液に集まる虫を狙うクモやカエル、さらにヘビなども観察できる。捕まえようとしたら目の前でクワガタがぽろりと草の中へ落ちてしまったり、カブトムシを木からつかみとることに苦労したりして、何よりも子どもたちが盛り上がる場面である。
 だが、私には心配なこともある。夜の森では子どもたちに、一分間に聞こえた音を数えてもらったり、何かに見える木々のシルエットをさがしてもらったりもするが、一つの音しか聴きとれなかったり、何も見つけることができない子どもが年々増えているような気がするのである。脳の働きと連動している視覚や聴覚でさえ、まだ充分にひらききっていない子どもが増えているのだろうか。
 夜の森のワンダーワールドは子どもだけではなく、大人にとっても感動的である。なかでもセミの羽化シーンほどミステリアスでドラマチックなものはないだろう。私は七月中旬から八月上旬にかけて毎年十五回前後夜の森へ入るが、ニイニイゼミからアブラゼミ、ツクツクボウシと変わっていく羽化シーンは、何度見ても飽きることはない。セミの羽化シーンに見入る真剣なまなざしを見ていると、この子どもたちは決して生きものを殺すことなどできない人間に育つのではないかとさえ思うのである。「命の大切さ」は言葉では教えられない。
 最後に子どもたちに感想をきくと、一言でいえば「怖かった」か「楽しかった」かのどちらかになってしまう。だが、言葉にはできない畏れや感動を分かち合いながら、夜の森では子どもたち同士の連帯感もはぐくまれるようである。帰りの車中では興奮しながら、出会った生きものたちの様子やそのときの気持を語り合っていることが多い。人間は一人では生きられない。元来、家族や群で生きている動物だということも、感じとってくれているのだろうか。


 
ミステリアスなセミの羽化         ナナフシモドキを見つけた

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